部下から「退職したいのですが…」と切り出されたとき、あなたはどう対応していますか?
多くの上司は、その瞬間に初めて部下の不満に気づき、慌てて給与や条件の話を始めてしまいます。しかし、その時点では既に手遅れ。部下の心はもう別の会社へ向かっているケースがほとんどです。
僕は、IT業界で15年以上のキャリアを積んできた現役のIT部長です。高卒からホストやパチンコ店など様々な職場を経験した後、25歳でIT業界にまったくの未経験で飛び込み、今では30人以上の部下を管理する立場になりました。39歳で最年少部長に昇進し、現在44歳で年収は1400万円を超えています。
この記事を読むと分かること
- 部下から退職を切り出された時の正しい初動対応
- 説得成功率90%超えのIT部長が実践する4つの心得
- 実際の説得成功事例3選と失敗事例2選のリアルな内幕
- 転職理由の上位パターンと根本原因の見極め方
- 2026年版:リモートワーク時代の退職兆候と具体的な対策
- 説得すべき時と応援すべき時の判断基準
この記事では、なぜ僕の説得が成功するのか、その秘訣と実際の事例をお伝えします。「転職を考えている部下がいる」「優秀な人材の離職を防ぎたい」という上司の皆様にとって、実践的な対策となるはずです。
この記事の要約
部下の転職説得で最も重要なのは、条件交渉ではなく「日々の信頼構築」と「部下への本気の愛」です。IT部長として過去10年で10名以上の説得に成功してきた著者が、信頼関係の土台づくり・上司自身の成長・組織での発言力強化・愛情の4つの心得を軸に、成功事例・失敗事例を交えて解説します。また、説得の大前提として「自社が説得に値する会社であること」を強調し、ブラック企業であれば応援すべきという本音も語っています。
説得に値する会社であることが前提条件

部下を説得する大前提は「この会社が、本当に部下の成長と幸福につながる場所であるかどうか」です。
ブラック企業の長時間労働や、明らかなパワハラ、給与が業界平均を大きく下回っているような状況では、むしろ部下の転職を応援すべきです。僕自身も、これまでの転職経験を通じて「本当にダメな組織」を何度も見てきました。その時の上司たちは、部下を説得する資格がありませんでした。
そうした前提があれば、あなたの説得には本当の力が宿ります。
転職希望者の説得を成功させる4つの心得

心得1:信頼関係の土台構築
信頼関係の土台がない状態で、どんなに良い条件を提示しても説得は失敗します。
具体的には、以下の3点を意識してください:
定期的なコミュニケーション
週に1回、15分程度の1対1面談を設定し、部下の考えや悩みを聞く習慣をつけます。重要なのは「指示を出す」のではなく「聞く」ことです。部下が何に不満を持ち、何に喜びを感じているのか、常に把握している上司になることです。
適切な指導と承認
ミスは誰にでもあります。大切なのは、そのミスをどう扱うかです。部下を否定するのではなく「このミスからどう学ぶか」という一緒の視点を持つことで、部下は「この上司は自分の成長を本気で考えてくれている」と感じます。
上司が信頼される行動をとる
口先だけで「君のキャリアを大事に考えている」と言っても、行動が伴わなければ意味がありません。約束したことを守る、部下の声を経営層に届ける、部下の成長のために自分も学び続ける—こうした姿勢が信頼を築きます。
心得2:リーダーが成長し続ける意識
僕自身、44歳の今でも月に2冊以上のビジネス書を読み、新しい技術トレンドをキャッチアップしようとしています。部下からの質問に「それは…わかりません」と答えることもあります。でも、その時に大切なのは「一緒に学びましょう」という姿勢です。
部下は、上司の成長意欲を見ています。 上司が成長をあきらめていれば、部下も「この会社に未来はない」と判断し、転職を選びます。
心得3:組織における発言力の強化
「君のキャリアを大切に考えている」と言いながら、給与の交渉もしない、昇進の機会も作らない—これでは説得は成功しません。本当に部下を思っているなら、上司は組織の中で部下の成長機会を作り、給与交渉もし、発言力を駆使して部下のためのポジションを作ります。
これは時に上司自身の利益と衝突することもあります。優秀な部下を別の部門に異動させるのは、自分の業績に悪影響を与えるかもしれません。でも、部下の成長を優先する上司になれば、部下の信頼度は格段に上がり、結果として優秀な人材が集まってくるのです。
心得4:愛(最も重要)
説得に成功する上司には共通点があります。それは「部下を本気で応援したい」「この人の人生が良くなってほしい」という気持ちが、心の底にあることです。
給与を上げるとか、ポジションを用意するとか、そうした条件面はあくまで副次的なものです。本当の説得力は「あ、この人は自分の人生を本気で考えてくれているんだ」という部下の気づきから生まれます。
僕が説得に成功してきた理由の一番は、実はテクニックではなく、部下を心から応援したいという気持ちなのです。だからこそ、部下も「こざおさんなら」と耳を傾けてくれるのだと思います。
転職理由の上位を理解する

転職を考える部下の理由は、大きく分けて以下の4パターンに分類されます。
2. 仕事内容やキャリアパスへの不満
3. 環境や人間関係への不満
4. キャリアの成長要求
1. 給与・待遇面への不満
- 年収が業界平均より低い
- 評価制度が不透明で、成果が給与に反映されていない
- 福利厚生が劣っている
2. 仕事内容やキャリアパスへの不満
- 同じ技術だけを使い続けて、スキルが偏っている
- やりたい仕事ができていない
- リーダーシップ経験や新しいプロジェクトの機会がない
3. 環境や人間関係への不満
- 上司や先輩との関係が悪い
- 残業が多く、ワークライフバランスが取れていない
- リモートワークが導入されていない(2026年版の新しい理由)
4. キャリアの成長要求
- より高いレベルの技術を学びたい
- 起業や経営に興味を持つようになった
- 異なる業界の経験を積みたい
説得に成功するには、まずこの「なぜ転職したいのか」の根本原因を正確に把握することが重要です。
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説得の成功事例3選

ケース1:入社4年目、優秀社員の転職希望
背景
成長意欲が高く、プロジェクトでも常にリード役を務めていた優秀社員(当時30歳)から「転職を決めた」との報告を受けました。転職先も既に決定していました。
転職理由
「自分の成果が給与に反映されていない」「評価制度が不透明で、いくら頑張ってもキャリアが見えない」という、典型的な評価制度への不満でした。
説得のアプローチ
- まずは不満を聞き切る:転職先での条件、給与、その会社を選んだ理由など、徹底的に聞きました。
- 本人の足りない点を丁寧に説明:評価が上がらない理由は、給与に反映されていないのではなく、経営層からの信頼構築に必要な「コミュニケーション力」と「組織への貢献度」の見せ方が弱かったこと、そして「人間力」の育成が必要だったことを説明しました。
- 具体的な改善策を提示:
- 即座に現場異動を行い、別のチームで新しいスキルを習得させる
- 昇給制度を大幅に改革し、成果が給与に直結する仕組みを構築することを約束
- 経営層に対して、本人の市場価値を積極的にアピール
- 信頼に基づいた約束:口だけではなく、人事部と連携して制度改革を進め、3か月以内に昇給を実現しました。
結果
説得に成功し、本人は内定を辞退しました。その後、新しい現場で新技術を習得し、現在も僕の配下で活躍しており、年収も大幅に上昇しています。
ケース2:入社6年目、内定承諾書提出済みでの引き止め
背景
勤続6年の社員が「転職を決めた」と報告してきました。すでに転職先の内定承諾書も提出済みという、かなり危機的な状況でした。
転職理由
「残業が多い」「現在の配属先のリーダーのマネジメント能力が低い」「将来性が感じられない」という、環境と人間関係の不満でした。
説得のアプローチ
- 丁寧なヒアリング:なぜ転職先を選んだのか、その企業の給与・待遇・環境について詳しく聞きました。
- 衝撃の事実発覚:聞き込みの結果、転職先は「年収がダウンする可能性がある」ことが判明しました。本人は年収交渉をしていなかったのです。
- 現実的な改善案を提示:
- 即座に現場から抜く(3か月以内に異動)
- 本人の希望する領域のプロジェクトに配属
- 配下に戻す(つまり、より高い給与体系の部門に異動)
- 内定承諾書の取り消しのサポート:本人が心理的に動けないでいたため、僕自身が転職先企業に連絡し、内定承諾書の取り消し交渉をサポートしました。
結果
説得に成功し、本人の不安も完全に払拭できました。その後、新しい現場で新しいプロジェクトに取り組み、ワークライフバランスも改善されました。
ケース3:入社8年目、スキル偏りからの脱出
背景
勤続8年の社員が「同じ現場に7年いて、スキルが一つの言語に偏ってしまった。このままではスキル市場での価値が下がる」と転職活動を開始しました。
転職理由
キャリアパスへの不満で、「新しい技術を習得したい」「市場価値のあるエンジニアになりたい」という、成長欲求からの転職活動でした。
説得のアプローチ
- 転職活動の報告時点で即対応:本人から報告を受けた時点で、すぐさま面談の時間を作りました。
- 具体的なキャリアプラン提示:
- 現在の現場から抜く約束
- 新しい技術(当時のトレンド技術:Kubernetes、クラウドインフラなど)を習得できるプロジェクトへのアサインを約束
- 3~6か月以内に異動することを確約
- 市場価値の向上をサポート:外部研修やセミナーへの参加も会社が支援することを提示しました。
結果
説得に成功し、本人は転職活動を中止しました。新しい現場で新しいスキルを習得でき、市場価値も大幅に向上しました。
説得の失敗事例2選
ケース1:地元に帰りたい理由には勝てない
背景
入社2年目の社員から「地元に帰りたいので、退職したいです」との報告を受けました。
転職理由
「親の介護が必要になった」「地元での生活がしたい」という、給与や仕事内容ではなく、ライフステージの大きな変化に基づく理由でした。
対応
この場合、僕は説得を試みませんでした。なぜなら、この理由は「お金」や「キャリア」では解決できない問題だからです。人生の優先順位が変わった時、上司ができることは「背中を押してあげる」ことだけです。
結果
快く退職を認めました。本人にとって、地元で家族の世話をすることが最優先だったのです。この場合、説得することが本当に本人のためになるのかを冷静に判断する必要があります。
ケース2:本当に優秀な人材には応援が正解
背景
入社3年目で、僕たちの会社でもトップクラスに優秀な社員から「最新のWEB技術を学びたいので、その案件がある企業に転職したいです」との報告を受けました。
転職理由
自社では扱っていない最新技術(当時のVueJS、React、その他フロントエンド技術)を本格的に学びたいという、純粋な成長欲求でした。
対応
この場合、僕は説得ではなく「背中を押す」ことにしました。理由は3つです:
- 自社にはその案件がない
- 本人の市場価値を高めることが、長期的には業界全体のためになる
- 説得して自社に留めるよりも、本人の挑戦を応援する方が信頼が深まる
結果
本人は転職し、数年後も他の仕事で協力する関係が続いています。むしろ、その後のプロジェクトで本人と一緒に仕事をするケースも生まれました。
2026年版:リモートワーク時代の退職兆候と対策
リモートワーク時代の新しい兆候
2. 勤務時間の調整
3. 会社Slackでのステータス変更
1. コミュニケーションの頻度低下
- Slack等での返信が遅くなった
- 1対1面談をドタキャンするようになった
- チャットでの雑談が減った
オフィスでは「何となく様子がおかしい」と気づきやすいですが、リモートワークでは意識的にコミュニケーション頻度を監視する必要があります。
2. 勤務時間の調整
- 定時直後にオフラインになる
- 会議に不参加になることが増えた
- 休暇を頻繁に取るようになった
これは「転職活動の時間を作っている」可能性が高いです。
3. 会社Slackでのステータス変更
- リモート勤務中に「Do Not Disturb」状態が続く
- オフラインの時間が増えた
リモート時代の対策:3つのポイント
定期的なビデオ面談を必須に
リモートワークでは、テキストコミュニケーションだけでは部下の心情を把握できません。週1回、15分程度のビデオ面談を「儀式化」することで、小さな変化も気づくことができます。
心理的安全性の強化
「何か悩んでることがあったら、いつでも相談してね」という掛け声だけでは足りません。実際に部下が相談してきた時に、否定的な反応をしないことが重要です。
会社の成長性と人事評価の透明性
リモートワークでは、オフィスでの評価(頑張っている姿が見える)が機能しなくなります。成果と評価の関係を明確にし、昇進や昇給の基準を透明にすることが、部下の不安を減らします。
まとめ
部下の転職説得は、上司としてのスキルの最高峰です。給与や条件の交渉ではなく、部下が「この会社で成長できる」「この上司なら信頼できる」と心から感じさせることが成功の秘訣です。
説得成功の5つの鍵:
- 日々の信頼構築:定期的なコミュニケーションと承認が基盤
- 上司自身の成長:部下は上司を見ている
- 組織内での発言力:部下のキャリアを実現する力
- 本気の愛:部下の人生を本気で応援する気持ち
- 正しい判断:説得すべき時と応援すべき時の見極め
そして、最も大切なことは「説得に値する会社であること」です。もし自社がそうでなければ、部下の転職を応援する方が、本当の信頼につながる場合もあります。
あなたの部下の人生が、より良くなるための選択をサポートすることが、上司の最大の役割なのです。