昇給交渉は、いつ・誰に・どう言えば通るのか|決める側が通した例と断った例

「もっと給料を上げてほしい」

 

そう思っていても、どう切り出せばいいか分からない。そもそも誰に言えばいいのかも分からない。

 

結論から言うと、通るかどうかは「言い方」より「いつ言うか」で大きく変わります。

 

私はIT業界で19年、うち部長として6年、中堅SESで昇給を決める側にいます。部下からの昇給の相談を通したことも、断ったこともあります。

 

この記事では、決める側が何を見て通し、何を見て断っているのかを、実際の判断そのままに書きます。

📌 この記事を読むとわかること

  • 交渉しなくても上がる分は、平均でいくらなのか
  • 部長が昇給を「通した」ときに見ていた条件
  • 同じ結果でも「断る」ことがある理由
  • 言うタイミングを間違えると、実力があっても通らない仕組み
  • いちばん通らない言い方と、その代わりに言うべきこと

この記事の要約

昇給は年1回のランク見直しで決まり、上げるには事前の社内調整が要ります。だから昇給の直前に言われても動かせません。通る人は、結果だけでなく顧客からの評価があり、昇給後のランクに能力が伴っています。逆に「昇給しないなら辞める」という言い方は、本当に辞めそうなほど見送られます。中堅SESの部長が、通した判断と断った判断を書きました。

まず、交渉しなくても上がる分を知っておく

交渉の話に入る前に、基準線を置いておきます。

黙っていても上がる分
黙っていても上がる分

厚生労働省の調査によると、令和7年の1人平均賃金の改定額は月13,601円、改定率は4.4%。賃金を引き上げた企業は91.5%です。

 

つまり、何も言わなくても9割の会社は上げています。

 

交渉で動かすべきなのは、この平均を超える部分です。

平均くらいは、勝手に上がるということですか?
会社によります。ここで見てほしいのが規模の差です。
企業規模別の改定額
企業規模別の改定額

同じ調査を企業規模で分けると、5,000人以上は16,784円、100〜299人は10,264円。6,500円の差があります。

 

中堅SESの多くはこの100〜299人に入ります。自動で上がる分がいちばん薄い層です。

 

ちなみに情報通信業そのものは14,096円で、産業別では中ほど。賃上げを実施した企業は97.4%と高いほうです。

 

出典:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」をもとに作成

私が「通した」のは、どういう人か

ここからが本題です。

 

通すと判断するのは、同期や同じランクの社員と比べて、圧倒的な結果を出している人です。ただし、それだけでは足りません。

 

見ているのは次の2つです。

 

  • 結果が案件運に恵まれただけではないこと
  • 技術スキル・マネジメントスキル・営業スキルが、昇給後のランクに見合っていること

 

そして最低条件があります。

 

顧客から「この単価に対して、ちゃんと生産性を出している」と評価されていることです。

社内の評価だけでは足りないんですか
足りません。SESの売上は顧客が払う単価で決まっているので、顧客が納得していない人の単価は上げられません。単価が上がらないのに給与だけ上げると、会社の利益が削れます。だから順番として、顧客の評価が先に来ます。

逆に「断った」のは、どういう人か

断るのは、運が良くて結果(売上)が出ただけなのに、本人が勘違いしているときです。

通すか断るかの判断
通すか断るかの判断

たまたま単価の高い案件に入った。たまたま炎上しないプロジェクトだった。それ自体は悪いことではありません。ただ、それを自分の実力だと思い込んでいる人は、上げた先で苦しみます。

 

昇給はランクが上がることなので、上がった先のランクで求められる仕事ができるかを見ます。そこに能力が追いついていなければ、本人のためにも通しません。

いま結果が出ていても、実力が足りなければ上がらないということですか
その年は見送ることがあります。ただ、力はあるのに結果が出ていない人は、結果が出たタイミングで必ず上げます。見ていないわけではなく、順番を待ってもらっている状態です。

タイミングを間違えると、実力があっても通りません

ここがいちばん伝えたいところです。

 

昇給のタイミング直前に言われると、正直どうにもできません。

 

昇給させるには社内の根回しが必要だからです。部門長が判断して役員が承認するまでに、人数分の枠と原資を調整します。とくに飛び級や管理職への昇給は、時間がかかるケースがほとんどです。

 

査定の直前に「上げてください」と言われても、もう動かす余地が残っていません。

 

昇給したい、管理職になりたいなら、できる限り早いタイミングで上司に相談してください。

早いって、どのくらい前ですか?
半年前でも早すぎることはありません!むしろ「来期こうなりたい」と先に言ってくれたほうが、こちらはそのための仕事を振れます。評価する材料を作る時間ごと渡せるので、通る確率が上がります。

昇給がどういう仕組みで決まっているかは、SESの給料はなぜ上がらないのかにランクの決まり方ごと書きました。

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いちばん通らない言い方

最後に、これだけは避けてほしいという言い方があります。

 

「昇給しないなら退職します」です。

通りやすい言い方・通りにくい言い方
通りやすい言い方・通りにくい言い方

意外に思われるかもしれませんが、本当に辞める可能性があると感じた場合、昇給は見送ることのほうが多いです。

引き止めるために上げる、ということにはならないんですか
逆です。辞める人の給与を上げるくらいなら、残って会社に貢献してくれる人を上げたい。これが普通の感覚だと思います。限られた原資をどこに配るかという話なので、辞めるかもしれない人は優先順位が下がります。

正直に書くと、可愛げがないとも感じます。そして、こういう言い方をするのは、自分を優秀だと思い込んでいる人に多いです。悪気がないぶん、空気を読めない発言になってしまう。

 

交渉のつもりが、評価を下げていることがあります。

 

代わりに言うなら、こうです。「来期こうなりたいので、いま何が足りませんか」。これなら、こちらも準備ができます。

よくある質問

Q. 誰に言えばいいですか?

直属の上司です。飛ばして上に言っても、結局その上司に差し戻されます。

 

判断するのは部門長、承認するのは役員ですが、材料を上げるのは直属の上司です。そこを味方にできていないと、話が上まで届きません。

Q. 数字で示せない職種でも通りますか?

通ります。むしろ数字が無い職種ほど、伝えないと伝わりません。

 

顧客から言われた一言、現場で巻き取った範囲、後輩に教えたこと。評価する側は現場にいないので、言われなければ見えていません。

Q. 断られたら、もう諦めるべきですか?

理由を聞いてください。「今回は枠が無い」なのか「実力が足りない」なのかで、次に打つ手がまったく違います。

 

足りないものが分かれば埋められます。枠が無いなら、埋めようがありません。後者が続くなら、会社の側を疑う段階です。

 

役職と年収がどこまで連動しているかは出世と年収はどこまで連動するかに、昇給の決め方ごと書いています。

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Q. 転職した方が早くないですか?

そのほうが早いこともあります。ただ、出世できないことを理由に動くと、2年目に下がるケースが多いというのが私の見てきた現実です。

 

その話は「出世できないから転職」は正解かにまとめました。

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まとめ|昇給は、言う前に決まっています

最後にまとめます。

 

  • 何も言わなくても9割の会社は上げている。平均は月13,601円・4.4%
  • ただし100〜299人の企業は10,264円で、自動で上がる分がいちばん薄い
  • 通るのは、結果に加えて顧客からの評価があり、昇給後のランクに能力が伴っている人
  • 断るのは、案件運で出た結果を自分の実力だと思い込んでいる人
  • 査定の直前に言っても動かせない。根回しの時間が要る
  • 「昇給しないなら辞める」は逆効果。本当に辞めそうなほど見送られる

 

昇給は、交渉のテーブルに着いた時点では、もう半分決まっています。

だから私は、部下に「上げてほしい」より「こうなりたい」と先に言ってほしいと思っています。そのほうが、こちらも動けますから。半年前の一言が、いちばん効きます。