残業は月何時間から危ないのか|部長が実際に止めた基準と、止められなかった話

「今月もきつかったけど、まだ大丈夫だと思う」

 

その「まだ大丈夫」の線が、どこにあるのか。

 

結論から言うと、2〜6か月の平均で残業が月80時間を超えたら、もう危ない水準です。

 

私はIT業界で19年、うち部長として6年、中堅SESで現場の稼働を管理しています。実際に止めたこともあれば、止められなかったこともあります。自分自身、31歳のときにうつ病で3ヶ月休職しました。

 

この記事では、国が定めている危険水準と、私が現場でアラートを上げている基準の両方を書きます。

📌 この記事を読むとわかること

  • 国が「危険」と判断している残業時間の具体的な数字
  • 現場の部長が、稼働何時間でアラートを上げているか
  • 単月ならセーフで、続くとアウトになる理由
  • SESで「止められない残業」が起きる構造
  • 時間が同じでも、管理職と若手で壊れ方が違う話

この記事の要約

国の労災認定基準では、残業が月45時間以内なら発症との関連は弱く、2〜6か月の平均で月80時間、または単月で約100時間を超えると関連が強いと評価されます。中堅SESの部長が稼働250時間でアラートを上げているのも、ほぼ同じ水準です。SESでは元請が炎上すると止められない構造があること、時間だけでなくプレッシャーで壊れる人がいることまで書きました。

国が「危ない」と判断している線は、はっきりあります

まず、感覚ではなく基準から確認します。

 

厚生労働省は、脳や心臓の病気を労災と認めるかどうかを判断する基準を定めています。そこに残業時間の具体的な数字が書かれています。

残業時間と、体へのリスクの目安
残業時間と、体へのリスクの目安
  • 月45時間以内  発症との関連性は弱いと評価される
  • 月45時間超   長くなるほど関連性が徐々に強まる
  • 2〜6か月の平均で月80時間超 関連性が強いと評価される
  • 発症前1か月でおおむね100時間 同じく関連性が強い

 

つまり「80時間を平均で超えたかどうか」が、ひとつの分かれ目です。

 

法律の側も同じ数字を使っています。時間外労働の上限は原則で月45時間・年360時間。特別な事情があっても、休日労働を含めて単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内、月45時間を超えられるのは年6回までです。

80時間って、具体的にどのくらいですか?
月20日勤務で割ると、1日あたり4時間です。定時が18時なら、毎日22時まで。それが2か月以上続いたら、もう国の基準では危険側に入っています。

出典:厚生労働省「脳・心臓疾患の認定基準」および「時間外労働の上限規制」をもとに作成

私が現場でアラートを上げている基準

ここからは、実際に動かしている運用の話です。

 

弊社では、月の稼働が250時間を超えるとアラートが上がる仕組みになっています。

稼働時間で見るとどのあたりか
稼働時間で見るとどのあたりか

所定を160時間とすると、250時間は残業90時間前後。国の言う「月100時間」の少し手前です。

 

偶然ではなく、体調に問題が出始めるのが、だいたいこの辺りだからです。

250を超えたら、すぐ止めてもらえるんですか
すぐ全部止まるわけではありません。アラートが上がって、上長が状況を確認する、という段階です。ただ、見えていないまま放置されるのと、誰かが数字を見ているのとでは大きく違います。

単月なら、仕方ない場合もあります

正直に書くと、単月、あるいは2か月限定なら、やむを得ないケースはあります。

 

炎上したプロジェクト。決算期などの繁忙期。短期で山を越えれば戻る、という見通しが立っているなら、そこは踏ん張りどころです。

 

問題は、それが3か月、半年と続くときです。国の基準が「2〜6か月の平均」で見ているのも、同じ理由だと思います。

SESには「止められない残業」があります

ここが、この業界特有の話です。

 

SESの場合、炎上しているのは自社ではなく、顧客側(元請の大手ベンダー)であることがほとんどです。

 

元請がデスマーチに入ると、常駐しているこちらも一緒に行進せざるを得ません。自社が「帰れ」と言っても、現場が止まらないのです。

会社が守ってくれない、ということですか
守ろうとはしています!ただ、できることに限りがあるのも事実です。営業が顧客に掛け合って要員を増やす、工程を見直してもらう。それでも元請の体制が崩れていると、動かないことがあります。だからこそ、本人からの声が早く上がってくることが重要なんです。

実際、半年から1年以上、月100時間前後の残業が続いて体調を崩し、休職した部下が何名かいます。

 

共通しているのは、途中で声が上がらなかったことです。本人が「まだいける」と言い続けている間に、数字だけが積み上がっていました。

 

現場の異変をどう伝えるかは、SESの待機は、会社からどう見えているのかにも書きましたが、早い共有がいちばん効きます。

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時間が同じでも、壊れ方が違います

もうひとつ、見落とされがちな話をします。

 

同じ残業時間でも、立場によって負荷がまったく違います。

 

管理者は、責任感から部下やメンバーの作業を引き取ります。そのうえで顧客との折衝も、営業面も持っています。稼働時間に加えて、プレッシャーが乗るわけです。

 

私が見てきた中で体を壊した人は、時間だけが原因ではありませんでした。

若手より管理職のほうが危ないということですか
どちらが危ないとは言えませんが、原因が違います。若手は作業量で潰れることが多い。管理職は、時間が同じでも責任とプレッシャーで潰れます。私自身も31歳のときはリーダーでした。

IT業界だから、という要因もあります

これは業界の性質として書いておきます。

 

IT業界には、コミュニケーションがあまり得意でない人も少なくありません。技術で評価されてきた人ほど、マネジメントや営業、顧客との折衝が苦手なことがあります。

 

そういう人が、通常よりも強くストレスを感じるのは当然だと思います。

 

そして炎上案件では、顧客への説明の機会が一気に増えます。開発工程を淡々と進めているときとは、会話の量がまったく違う。いちばん苦手なことを、いちばん苦しいときにやらされる構図になります。

 

時間を数えるだけでは、本当の負荷は測れません。

 

私自身の休職についてはうつ病で3ヶ月休職して気づいたことに書きました。

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よくある質問

Q. 自分の残業時間が何時間か分かりません

まず勤怠を自分で集計してください。

 

会社が管理しているはずですが、常駐先の作業時間と自社の勤怠がずれているケースは普通にあります。見込み残業がある会社だと、超過分が申請されていないこともあります。

 

1週40時間を超えた分が時間外労働です。そこを3か月分、並べてみてください。

Q. 止めてほしいと言ったら、評価が下がりませんか

下がりません。少なくとも、私は下げたことがありません。

 

むしろ困るのは倒れてから知らされることです。1人抜ければ、残ったメンバーがさらに苦しくなります。早く言ってもらったほうが、打てる手が多いです。

Q. 会社が何もしてくれない場合は?

記録を残してください。勤怠、入退館の記録、チャットの時刻。あとから必要になります。

 

そのうえで、会社の体制そのものが原因なら、場所を変えることも選択肢です。判断材料はブラックIT企業の特徴と見分け方にまとめました。

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Q. 繁忙期だけなら我慢すべきですか

終わりが見えているかどうかで判断してください。

 

「来月リリースすれば戻る」なら踏ん張る価値はあります。「いつ終わるか誰も言えない」なら、それは繁忙期ではなく常態です。国の基準が平均で見ているのも、一時的か継続かを区別するためです。

まとめ|数字で見ておけば、間に合います

最後にまとめます。

 

  • 国の基準では、月45時間以内なら関連性は弱い
  • 2〜6か月の平均で月80時間超、または単月で約100時間から関連性が強いと評価される
  • 法律の上限も同じで、特別条項でも単月100時間未満・複数月平均80時間以内
  • 現場では稼働250時間(残業90時間前後)でアラートを上げている
  • 単月は耐えられても、3か月続いたら別物
  • 管理職は時間が同じでもプレッシャーで壊れる。時間だけでは測れない

 

倒れてからでは、会社にできることはほとんどありません。

私が休職したとき、いちばん後悔したのは「もっと早く言えばよかった」でした。言いにくいのは分かります。でも、数字を見せるだけなら言い訳も要りません。3か月分の勤怠を並べて、上司に渡してください。それだけで十分伝わります。