「部下が育たない」
管理職になって、一度も思ったことがない人はいないはずです。私も何度も思いました。そしてその原因の大半は、自分の任せ方にありました。
IT部長・こざおです。中堅SES企業で19年、うち部長として6年。延べ200人以上の部下を見てきました。
この記事では、育成論の一般論ではなく、私が実際にやっていることと、部下を潰してしまった失敗談を書きます。成功例だけ並べても、たぶん役に立たないので。
📌 この記事を読むとわかること
- 優秀な部下を潰してしまった失敗談
- 決裁権限を最大限まで与えて、失敗させるという考え方
- 提案のない相談は受け取らない理由
- 適度な負荷のかけ方と、褒める・叱るのバランス
- タイプ別の任せ方と、やってはいけない任せ方
- 1on1で実際に聞いていること
この記事の要約
部下が育たない原因の多くは、本人ではなく任せ方にあります。延べ200人以上の部下を見てきた現役IT部長が、決裁権限の渡し方と口を挟む基準を、優秀な部下を潰してしまった失敗談も含めて書きました。
最初に、私の失敗から書きます
育成の話をする前に、失敗した話をさせてください。私は部下を潰したことがあります。しかも数名です。
優秀な部下に現場を任せきりにして、うつ病になり、退職に至ったケースです。

技術をやりたい部下に、営業とリーダーを任せた
共通していたのは、技術面だけをやりたい部下に、営業面やリーダーとしての動きを任せてしまったことです。
私の理屈はこうでした。技術力が高い。現場でも信頼されている。だから次はチームを任せて、顧客折衝も経験させれば、さらに伸びるはずだ、と。
でも本人は、技術を突き詰めたかったのです。顧客との調整も、メンバーの管理も、本人にとっては負荷でしかなかった。
それでも真面目な人ほど、断らずに引き受けます。そしてできないとは言わないまま、少しずつ削られていきます。
「優秀だから大丈夫」が一番危ない
今になって分かるのは、優秀な部下ほど任せきりにしてしまうということです。
できる人には安心して振れます。報告も的確で、トラブルも起きない。だから見なくなる。他の手のかかるメンバーに時間を使ってしまう。
気づいたときには、本人が限界を超えていました。順調に見えている部下ほど、意識して見にいかないといけません。
この経験から、私は適材適所で仕事を任せることを強く意識するようになりました。全員を同じ方向に伸ばそうとしない。技術を極めたい人には、その道で評価される仕組みを作る。これが出発点です。
育てるコツ①|決裁権限を最大限まで与えて、失敗させる
ここからが本題です。私が今やっていることを書きます。
一番大事にしているのは、決裁権限を最大限まで与えて、失敗を経験させることです。

実際に任せている範囲
具体的には、こういう判断を本人に委ねています。
- 増員・減員のタイミング
- 顧客との単価交渉
- 新規案件を立ち上げるタイミング
- 体制の組み替え
どれも部門の数字に直結する判断です。正直、怖いです。でもここを握ったままでは、部下はいつまでも判断する力が身につきません。
致命傷にならなければ、失敗させる
判断基準はシンプルで、致命傷にならなければOKです。
多少の損失が出ても、顧客に軽い迷惑がかかっても、取り返せる範囲なら口を挟みません。黙って見ています。
失敗したときも怒りません。怒っても何も生まれないからです。代わりに「なぜ失敗したか」を本人に考えさせます。そして同じ失敗を繰り返さないよう、改善策まで自分で出させる。
これを何度か経験した部下は、明らかに判断が速くなります。
口を挟むのは「致命傷になる」ときだけ
もちろん、何でも放任するわけではありません。
例えば「新規案件を今の時点で立ち上げておかないと、来期の売上が確実に落ちる」というケース。これは取り返しがつきません。こういうときは介入します。
つまり私の役割は、失敗の上限を決めることです。どこまでなら転んでいいかの線を引いて、その内側では自由にやらせる。線の外に出そうなときだけ、手を出す。
やり方を見せてから、任せる
一点、順番があります。いきなり任せるのではなく、まず自分がやって見せます。
単価交渉なら、私が交渉している場に同席させる。新規案件の立ち上げなら、一度一緒にやる。そのうえで次は本人に任せ、自分で判断させて、決断したことを実行させる。
見せずに任せるのは、放置と同じです。ここを飛ばすと、さっき書いた「潰す」パターンに戻ります。
育てるコツ②|提案のない相談は、受け取らない
これは毎日やっていることです。
部下から相談が来たとき、提案が伴っていない相談には答えません。代わりにこう返します。
冷たく聞こえるかもしれません。でもこれには理由があります。
答えを渡すと、考える機会を奪う
「どうしましょうか」に対して「こうしなさい」と答えるのは簡単です。その場は早く終わります。
でもそれを続けると、部下は考えなくなります。聞けば答えが返ってくるので、自分で結論を出す筋肉がつかない。
数年後、その人が管理職になったときに困ります。上司がいない場面で判断できないからです。
提案が来たら、基本はその案でいく
ここが大事なところです。提案させておいて却下ばかりしていたら、次から提案が来なくなります。
だから提案が出てきたら、基本はその案に任せます。私から見て70点の案でも、致命傷でなければ通します。
100点の私の案でやるより、70点の本人の案でやった方が、結果として組織は強くなる。本人が自分で決めた案は、実行の熱量が違いますから。
育てるコツ③|適度な負荷をかけ続ける
最近は「無理をさせない」風潮が強くなっています。それ自体は正しい。私も潰した経験があるので、なおさらそう思います。
ただ、負荷をゼロにすると、人は成長しません。ここのさじ加減が、管理職の腕の見せどころです。
今の若手にも、成長意欲はある
よく「今の若い子はやる気がない」と言われますが、私の実感は違います。
成長意欲はちゃんとあります。問題は、そのスイッチがどこにあるかを上司が見つけられていないことです。
ある人は、責任を持たされると燃えます。ある人は、評価されると動きます。ある人は、同期と比べられると火がつく。全員に同じ接し方をしていたら、当然ハマりません。
褒めると叱るのバランス
どちらか一方に偏るとうまくいきません。
褒めるだけだと、危機感が生まれない。叱るだけだと、萎縮して提案が出てこなくなる。
私が意識しているのは、成長し続けないと生き残れないという危機感を持たせながら、行動したことはきちんと認めるというバランスです。
危機感だけ煽ると人は動きません。動いた先に評価があると分かって、初めて動きます。
業務時間外に行動する「仕組み」を作る
成長の差は、結局のところ業務時間外に何をしているかで決まります。
ただ「勉強しろ」と言っても誰もやりません。だから仕組みを作ることを考えます。
資格取得の補助制度、オンライン学習サービスの提供、半期ごとの目標設定。やる気に依存せず、続けられる流れを用意するのが会社側の仕事です。
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育てるコツ④|トップが結果を出して、背中を見せる
ここが一番大事かもしれません。そして、一番ごまかしが効かないところです。
部下は、上司の言葉ではなく行動を見ています。

仕事を取ってくる
管理職が現場に「もっと頑張れ」と言うだけで、自分は何も取ってこない。これでは誰もついてきません。
私は今でも顧客先に出向いて、案件を取ってきます。新規の開拓もします。部門の売上を作っているのが誰かを、メンバーが分かっている状態を保つようにしています。
数字を作れない管理職の言葉は、届きません。
会社の仕組みを、少しずつでも変える
現場の不満の多くは、個人の努力では解決できない仕組みの問題です。
評価制度が曖昧、教育に投資しない、休みが取りにくい。こうした点を上に掛け合って、少しずつでも変えていく。
一度に変わらなくてもいい。ただ「この人は会社を変えようとしている」と伝わるだけで、部下の見る目は変わります。逆に、文句を言うだけで動かない上司は、すぐに見抜かれます。
待遇を改善する|結果を出した人が報われる仕組み
最後はここに行き着きます。
どれだけ育成の言葉を並べても、結果を出した人が正当に評価されない会社では、人は育ちません。頑張っても報われないと分かった瞬間に、努力は止まります。
だから私は、結果を出した人間が適切に評価される仕組みを作ることを、自分の仕事だと思っています。単価が上がったら給与に反映する、役割が広がったら役職で報いる。ここを曖昧にしない。
育成とは、教えることではなく「頑張る理由がある状態」を作ることだと考えています。
タイプ別|この部下には、どう任せるか
「全員に同じ接し方をしてもハマらない」と書きました。では具体的にどう変えるのか。
延べ200人を見てきて、大きく4タイプに分かれると感じています。

① 技術を極めたいタイプ
一番注意が必要です。私が潰したのは、このタイプでした。
マネジメントや顧客折衝を任せると、負荷にしかなりません。よかれと思った抜擢が、本人にとっては罰になります。
任せるなら技術的に難易度の高い案件、新しい技術の検証、設計の主担当です。そして「技術で評価される道がある」ことを、はっきり伝えてください。
会社としても、技術職のまま年収が上がるルートを用意しておく必要があります。ここがないと、優秀な技術者は必ず外に出ていきます。
② マネジメントに進みたいタイプ
このタイプには、前述の「決裁権限を渡して失敗させる」が最も効きます。
小さなチームのリーダーから始めて、体制の組み方、メンバーの配置、顧客との調整を順に任せる。失敗しても取り返せる規模から始めるのがコツです。
伸びる人は、任せた次の週にはもう自分から提案を持ってきます。
③ 何がしたいか決まっていないタイプ
実は一番多いです。そして放っておくと一番伸びません。
このタイプに「何がやりたい?」と聞いても答えは出ません。代わりに選択肢を2つ出して選ばせます。
「次は設計をやるか、後輩の指導をやるか、どっちがいい?」。これなら答えられます。選んだ時点で、本人の中に「自分で決めた」という感覚が生まれます。
決められない人を責めても何も変わりません。決められる形にしてあげるのが上司の仕事です。
④ 現状維持で十分だと考えているタイプ
これは正直、難しいです。
無理に引き上げようとすると、①のパターンになります。かといって放置すると、単価が上がらず、いずれ本人が困ります。
私がやっているのは、小さな役割を一つだけ渡すことです。後輩のレビュー担当、手順書の整備、朝会の進行。責任の重さは軽く、しかし「任されている」という実感はある仕事。
ここで反応があれば次に進みます。まったく響かない場合は、その人にとっての適所はそこなのだと受け入れる判断も必要です。全員を同じ高さまで引き上げるのは、管理職の役割ではありません。
やってはいけない任せ方
失敗を重ねて分かった、避けるべき任せ方も書いておきます。

丸投げを「権限委譲」と呼ばない
一番やりがちです。私もやりました。
権限委譲は「判断の範囲を決めて渡す」ことです。丸投げは「範囲を決めずに放り出す」こと。見た目は似ていますが、まったく別物です。
任せるときは必ず伝えてください。「ここまでは自分で決めていい。ここから先は相談して」と。この線がないと、部下は毎回迷いますし、迷った末に止まります。
任せた後に、結論だけひっくり返さない
これをやると、次から提案が来なくなります。
どうしても方針を変える必要があるときは、なぜ変えるのかを必ず説明してください。「やっぱりこっちで」だけだと、本人は「結局は上が決めるんだ」と学習します。
私は、自分が介入したときは必ず理由を言うようにしています。「これは来期の売上に直結するから、今回は自分が判断する」と。
「見ている」と「監視する」を混同しない
任せたあとに細かく進捗を確認しすぎると、信頼していないというメッセージになります。
私は、報告のタイミングだけ先に決めておきます。「週1回、金曜に5分だけ状況を教えて」。それ以外は聞きません。
これなら本人は自由に動けますし、こちらも状況を見失いません。
他のメンバーの前で叱らない
基本ですが、守れていない管理職は多いです。
人前で叱ると、その人の指示が通らなくなります。チームの中での立場を、上司自身が壊してしまうからです。
伝えるべきことは1on1で伝える。人前で言うのは、褒めるときだけにしてください。
それでも育たないときに、確認すること
ここまでやっても変わらないケースはあります。そのときに見るべき点を挙げます。
本人の問題か、環境の問題かを切り分ける
現場が合っていないだけ、という場合があります。
常駐先の雰囲気、任されている工程、周囲のメンバー。環境を変えたら別人のように伸びる人を、私は何人も見てきました。
育たないと感じたら、まず配置を疑ってください。人を変える前に、場所を変える。
評価が本人に伝わっているかを確認する
上司は伝えたつもりでも、本人に届いていないことがよくあります。
「何が足りないのか」を具体的に言われていないと、人は変わりようがありません。「もっと頑張れ」は指導ではありません。
「報告を、困った当日に上げてほしい」。ここまで具体的にして、初めて行動が変わります。
見切りの判断も、上司の仕事
最後は厳しい話です。
最善を尽くしても変わらない場合、早い段階で見切る判断も必要です。育たない一人に工数を割き続けた結果、優秀なメンバーの心が離れてしまっては本末転倒だからです。
ただし見切る前に、自分が「具体的な行動」で伝えたかを必ず振り返ってください。私の経験では、見切る判断が正しかったケースは半分程度です。残り半分は、伝え方と仕組みが足りていませんでした。
この判断基準については仕事ができない人の特徴6選でも、指導と見切りの両面から書いています。
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1on1で私が実際に聞いていること
最後に、日々の運用の話を書きます。
「今、何に一番時間を使っている?」
最初に必ず聞きます。
本人の認識と、こちらが把握している状況がズレていることがよくあります。頼んだ覚えのない仕事に時間を取られていることも珍しくない。ここで早めに気づけます。
「困っていることはある?」ではなく「何を外したい?」
「困っていることはある?」と聞くと、たいてい「大丈夫です」と返ってきます。
代わりに「今の担当から1つ外せるとしたら、何を外したい?」と聞きます。これだと具体的な答えが出ます。そして外したいものが「本人の希望と合っていない仕事」であることが多い。
冒頭に書いた失敗は、この質問をしていれば防げたと思っています。
「次にやってみたいことは?」
本人が伸ばしたい方向を確認します。
技術を極めたいのか、マネジメントに進みたいのか、上流工程をやりたいのか。ここを聞かずに任せると、適材適所から外れます。
やりたいことが言えない人もいます。その場合は選択肢を2つ出して選ばせます。ゼロから考えさせるより答えやすいからです。
評価を伝えるときの順番
面談で評価を伝えるときは、順番を決めています。
- できていることを具体的に伝える(事実ベースで)
- 足りていないことを1つか2つに絞って伝える
- 次に何をすれば評価が上がるかを明確にする
3つ目が抜けている面談が、世の中には多すぎます。「何が足りないか」だけ伝えて終わると、本人は何をすればいいか分かりません。
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まとめ|育成とは、任せ方と仕組みの設計
要点を整理します。
✅ 提案のない相談には答えない。提案が出たら基本はその案に任せる
✅ 負荷はゼロにしない。やる気スイッチは人によって違う
✅ トップが数字を作り、仕組みを変え、待遇を改善する
✅ 本人が望まない方向に任せると、優秀な人ほど潰れる
19年やってきて思うのは、育成とは「教えること」ではなく「任せ方と仕組みを設計すること」だということです。
研修を増やしても、評価が曖昧なら人は育ちません。丁寧に教えても、判断させなければ考える力はつきません。
そして何より、上司自身が結果を出し続けていないと、何を言っても響きません。これが一番しんどいところであり、管理職の仕事の本質だと思っています。
私も失敗しました。数名を潰しました。その反省の上に、今のやり方があります。同じ失敗をする人が一人でも減れば、この記事を書いた意味があります。
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